不条理喫茶店

僕の家の近くに、とても不条理な喫茶店がある。

外見はスタバのようなセルフサービスで、スタンプカードを発行している。
300円分買うごとにスタンプを押してくれるのだが、問題は、ここはコーヒーも紅茶も250円ということだ。

最もポピュラーなこれらの商品が300円以下だから、行けども行けども、まったくスタンプはたまらない。
さらにモーニングサービスとして、10時まではコーヒー紅茶が180円になる。
それは嬉しいのだが、ますますポイントがたまらないジレンマに陥る。
本気でスタンプをもらおうとすると、高くて飲みたくもないカフェオレなんかを強引に注文するしかないのだ。

長い間、僕はこのお店をひいきにしているのに、いまだいっぱいになったスタンプカードを見たことがない。
さらにこの店では、同じ単調なCDの音楽を、延々と一日中流している。
聞いていると、なんだかトリップしてしまいそうになるのである。
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A Pure Heart

「ねえ、髭男爵っていうお笑いコンビがいるでしょ……」
この間、20代OLのK子とバーで飲んでいた時、こう言いだした。
「ひょっとしてあの人たち、本当はフランス貴族じゃなかったの?」

僕はずるっと止まり木から転げ落ちそうになった。
辛うじて体勢を立て直し、反論する。

「ちがうに決まってるだろ!」
「だって、自分でフランス貴族のルイ何世だって言ってるじゃない」
「漫才師の言うことを真に受けてどうする。そういう設定なんだよ。だいたい、なんでフランス貴族が大阪弁を喋るんだ」
「うーん……」

K子は口をつぼめ、宙を見上げた。

「おかしいとは思ったけど、フランスでも上流階級は大阪弁で会話してるとか。」
「確かに、昔のロシア貴族はフランス語で会話してたけどね。大阪弁がそんなにお上品な言葉かいな。そもそも、何が悲しくて、フランス貴族が日本でどつき漫才しなくちゃならないんだ」
「確かに変ね。でも、漫才を演じるのがフランス上流階級のたしなみなのかと思ってた。まさか、テレビが嘘をつくなんて、信じられないわ」
「君の信じやすい心に乾杯したいよ」

そう言って、僕は彼女のワイングラスに、自分のグラスを近づけた。