『伯林蝋人形館』(皆川博子著)が届く

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先日、一冊の本が僕のもとに届いた。文藝春秋からだった。
本のタイトルは『伯林蝋人形館』(ベルリンろうにんぎょうかん)。第95回直木賞作家の皆川博子さんの新刊小説である。

この小説が送られてきたのは、この本の中で、僕の処女作『ゲオルク・トラークル、詩人の誕生』が取り上げられているからだ。
巻末の「参考資料」にはこうある。

杉岡幸徳先生の『ゲオルク・トラークル、詩人の誕生』(中略)の大いなる助けを受けたことを、深い感謝とともに付記します。ヨハン・アイスラーの詩は、杉岡先生の訳になるトラークルの詩を使用させていただきました。マティアス・マイとヨハンの造形は、杉岡先生が描かれたトラークル像に発想のもとを得ています。


「杉岡先生」というのがちょっと恥ずかしいが、つまりはそういうことである。
アマゾンの紹介文よりー

陸軍幼年学校から軍人の道を歩むはずが、ジゴロとなったアルトゥール。帝政ロシアからドイツに亡命し、シナリオライターを夢見るナターリャ。ミュンヘン市民のプロレタリアートでルンペン暮らしから這い上がり、ナチ党員となるフーゴー。裕福なドイツ系ユダヤ人の家に生まれ、義勇軍に参加した後、大富豪となるハインリヒ。薬を常用する蝋人形師マティアス・マイ。カバレット“蝋人形館”の看板歌手ツェツィリエ。彼らの人生は、様々な場所、時代で交錯し、激動の歴史に飲み込まれていく―。『死の泉』から九年、壮大な歴史ミステリー長篇。


僕が『トラークル』の中で描いたのは、絶望的なまでに美しく穢れた、ジャンキーとしての詩人像だが、皆川先生は、それを光のように二つに分け、新しい人物を創造している。まるでドッペルゲンガーのように。
ところどころ、僕の訳したトラークルの詩「嘆き」「グロデク」「滅び」「夢と錯乱」などが散りばめられているのが嬉しかった。
ぜひ一度、ご一読ください。

最近、
「小説を書いてみないか」
と言われることがありますが、それも今考えています。

安原顕氏の『トラークル』書評を発見!

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僕が2000年に出した、『ゲオルク・トラークル、詩人の誕生』(鳥影社)。

これは元は、僕が東京外語大ドイツ語学科の修士論文として執筆したものだが、なぜかこれを読んだ教授たちの凄まじい怒りを受け、それによって大学を追放された、記念碑的な作品である。
(ちなみに、ニーチェは『悲劇の誕生』により、ベンヤミンは『ドイツ悲劇の根源』により、同じようにアカデミズムの怒りを受け、アカデミズムから追放されている)

僕はこの修士論文を何とかして出版した。これこそ僕の処女作であり、僕の物書きとしての原点である。

決して、大々的に売れた本ではない。
しかし、選ばれた読み手たちからは絶賛された。いくつかの書評も出たし、熱烈なファンレターをもらったりした。

最近では、直木賞受賞作家である皆川博子先生が、「別冊文藝春秋」の2006年1月号の連載小説「伯林蝋人形館」の第四回目で、僕が『トラークル』で翻訳した、トラークルの詩を引用してくださっている(トラークルの翻訳は、ほかに何種類もある)。
出版されて六年たったが、この本の余波は今も続いているのだ。
僕自身、あの時、
「かりに今僕が死んでしまっても、この『トラークル』だけで、僕は歴史のどこかに名前を残すだろう……」
と考えながら書いた本だ。

ところが今日、まったく偶然に、故・安原顕氏が、この『トラークル』のためにウェブに書いてくださった書評を発見したのだ。
どうして今まで気づかなかったのだろう。

安原顕さんは、辣腕の編集者で、高名な評論家でもあり、毒舌とその裏側に潜む優しさから、「天才ヤスケン」「スーパーエディター」と呼ばれて愛された人だ。
しかし、彼は2003年1月20日、肺がんで死去した。63才だった(安原顕氏についてはこちらが詳しい)。

そのような方が『トラークル』を読んでくださっていたのは驚きだし、彼の書評を読めば、『トラークル』で僕が披露した、ドラッグで文学や文化現象を読み解くという特異な手法に感動し、刺激を受けていたことがわかる。

今こそ言えるが、『トラークル』が本当に評価されるのは、これからだろう。一度書いた本は、死にはしないーそれがまともな本ならば。
以下に、安原さんが『トラークル』のために書いてくださった書評を示す。
星がついていないのが残念だが、ウェブで安原さんの書評を見ると、すべてに星がついていないので、これが彼のスタイルだったのだろう。